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福井地方裁判所 昭和54年(行ウ)3号 判決 1984年11月30日

福井市中央一丁目二〇番二二号

原告

株式会社福井県金融相談所

右代表者代表取締役

林政之

右訴訟代理人弁護士

杉原英樹

福井市春山一丁目六番一号

被告

福井税務署長

小林章浩

右指定代理人

林道春

西尾清

山本三郎

亀山忠男

坪内邦和

岡田俊彦

谷内由明

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五〇年一〇月二六日付で原告に対してなした左記処分は、いずれもこれを取消す。

(一) 原告の昭和四五年一〇月一日から同四六年九月三〇日までの事業年度分法人税の更正処分及び重加算税賦課決定処分

(二) 原告の昭和四六年一〇月一日から同四七年九月三〇日までの事業年度分法人税の更正処分及び重加算税賦課決定処分

(三) 原告の昭和四七年一〇月一日から同四八年九月三〇日までの事業年度分法人税の更正処分及び重加算税賦課決定処分

(ただし、異議決定により一部取消された後のもの)

(四) 原告の昭和四八年一〇月一日から同四九年九月三〇日までの事業年度分法人税の更正処分並びに重加算税及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、異議決定及び裁決により一部取消された後のもの)

(五) 原告の昭和四九年二月分、三月分、四月分、五月分、六月分、八月分、九月分の各源泉徴収にかかる所得税の納税告知処分並びに不納付加算税の賦課決定処分

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、金融業を営む会社であるが、別表(一)ないし(四)の各課税期間に対応する各事業年度分の法人税について、同各別表の(1)欄記載のとおり確定申告をしたところ、被告は、同各別表の(2)欄記載のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに加算税の賦課決定処分をした。

2  被告は、右各処分と同時に、原告に対し、別表(五)の「年月」欄記載の各月分の源泉徴収にかかる所得税につき、同別表の「原処分」欄記載のとおり、源泉所得税の納税告知処分並びに不納付加算税の賦課決定処分をした。

3  原告は、1項の各処分につき、これを不服として別表(一)ないし(四)の各(3)欄記載のとおり異議の申立てをしたところ、被告は、同各別表の(4)欄に記載のとおりの決定をなしたので、原告は、さらに同各別表の(5)欄記載のとおり、国税不服審判所長に対し審査請求をなしたが、同所長は、同各別表の(6)欄記載のとおりの裁決をなし、昭和五四年二月二日、原告は、右裁決書謄本の送達を受けた。

また、原告は、2項の各処分についても、右の異議申立て及び審査請求をした時と同時にこの申立て等をなし、右の決定及び裁決を受けた時と同時に別表(五)の「異議決定」欄及び「裁決」欄記載のとおりの決定及び裁決を受け、裁決書謄本の送達を受けた。

4  しかしながら、被告の別表(一)ないし(四)の各(2)欄記載の各処分(別表(三)については(4)欄記載のとおり、別表(四)については(4)、(6)欄記載のとおり、それぞれ一部取消し後のもの。)はいずれも原告の所得を過大に認定した違法があり、また、別表(五)の「原処分」欄記載の各処分は、いずれも役員賞与を過大に認定した違法がある。

よって、原告は、被告に対し、右各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4の主張は争う。

三  被告の主張

1  法人税更正処分の適法性

原告の本件各事業年度における所得金額は、それぞれ次のとおりであり、被告の本件各更正処分はいずれもその範囲内でなされたものであるから適法である。

(一) 昭和四五年一〇月一日から昭和四六年九月三〇日の事業年度分(別表(一)参照。以下「昭和四六事業年度分」という。)

(1) 所得金額 金一三六六万一一九三円

本件更正前の所得金額は、金七九万一五五三円であるところ、右は本事業年度の収入利息一二八六万九六四〇円を益金に計上していないので、これを加算すると右所得金額となる。

(2) 加算の事由

次のとおり原告には未計上の収入利息がある。

(イ) 原告は、昭和四二年六月ころ、森田祐兵衛(以下「森田」ともいう。)が代表取締役をする森栄織物株式会社(以下「森栄織物」という。)に対し、金二〇〇万円を月利五パーセント、弁済期は二か月後との約定で貸付け、その利息金二〇万円を天引き収益するとともに森栄織物から額面金二〇〇万円の約束手形(振出人白井実業株式会社(以下「白井実業」という。)、裏書人森栄織物、支払期日を六〇日先とするもの。)を受取った。

(ロ) 森栄織物は、右の弁済期に右元金を返済することができなかったので、原告は、森栄織物から前回の元金に月五パーセントの割合の利息二か月分を加えた金額を上回る額面金額で六〇日先期日の約束手形を受取り、これに対して右額面金額の金員を貸付け、その中から前回の元金の返済を受けるとともに右貸付金額に対する月五パーセントの割合による利息二か月分を天引き受領した。

(ハ) 以後同様の貸借方法が反復された結果、原告の森栄織物に対する貸付金は二か月ごとに増大し、これが約一七〇〇万円となった昭和四五年ころからは新規の貸付及び返済が行なわれず、利息のみが累積して元金となり、昭和四七年六月末日には右元金が金四七五九万円に達し、翌七月末日においては、同月分の利息金二四一万円を加えて金五〇〇〇万円となった。

(ニ) そこで、森栄織物は原告に差入れていた額面金額が合計金四七五九万円の約束手形や小切手を自己振出の額面金額が金五〇〇〇万円の約束手形に書換えたうえ、昭和四九年八月二六日福井銀行本店において、原告に対し、右手形と引換えに金五〇〇〇万円を支払った。

(ホ) 右の事実関係、すなわち

<1> 昭和四七年七月一日現在の貸付金が金四七五九万円であること

<2> 各貸付期間がいずれも二か月であること

<3> 各利率がいずれも月五パーセントであること

<4> 昭和四五年ころからは新規の貸付及び弁済がなかったこと

を基礎として昭和四七年七月一日から二か月ごとに遡及して貸付元金及び約定利息金額を算出すると別表(六)及び(七)のとおりとなり、このうち昭和四六事業年度分の収入利息は、別表(六)のとおり、少なくとも右貸付元金の二か月ごとの差額の合計である金一二八六万九六四〇円となる。しかるに、原告は右収入利息金額を益金の額に算入しなかった。

よって、右金額は、本事業年度分の益金として加算すべきものであるから、これを加算すると、本事業年度分の所得金額は、前記のとおりの金額となる。

(二) 昭和四六年一〇月一日から昭和四七年九月三〇日の事業年度分(別表(二)参照。以下「昭和四七事業年度分」という。)

(1) 所得金額 金二二三四万六三九二円

本件更正前の所得金額は、金一二八万一六五五円であるところ、右は、昭和四六年九月一日から昭和四七年七月三一日までの収入利息金二〇四五万〇三五五円と昭和四七年八月一日から同年九月三〇日分の収入利息金一〇五万八八二二円の合計金二一五〇万九一七七円の収入利息を益金に計上していないのでこれを加算し、さらに支払利息として損金に計上されたうち金一〇一万二五〇〇円は過大計上であるのでこの分を減算し、前年度の所得金額の増加に対応する未納事業税が金一四五万六九四〇円となるのでこれを損金に加算すると右所得金額となる。

(2) 加算、減算の事由

(イ) 被告の主張1(一)(2)記載のとおりの事由があり、これと同様に本事業年度分の収入利息を計算すると、別表(七)のとおり合計金二〇四五万〇三五五円となるが、原告はこれを益金の額に算入しない。

(ロ)<1> 原告は昭和四七年七月ころ、森栄織物との間において、同社に対する裏取引の貸付債権に関し、その貸付元本を金五〇〇〇万円、利息を月五パーセントとする旨の合意をした。

<2> 森栄織物は、右合意による利息として、昭和四八年中に原告に対し、金九〇〇万円を支払い、さらに昭和四九年三月中に金一三〇万円を支払った。

<3> 右によれば、金九〇〇万円は昭和四七年八月から昭和四八年一二月までの一七か月間の利息、金一三〇万円は昭和四九年一月ないし三月分の利息とみるのが相当であり、これを各月の利息として按分すると別表(八)ないし(一〇)のとおりとなり、本事業年度分に該当する右の収入利息(昭和四七年八月一日から同年九月三〇日分)は、別表(八)のとおり合計金一〇五万八八二二円となる。しかるに、原告はこれを益金の額に算入しない。

(ハ) 原告は、昭和四六年九月七日に森栄織物から金一〇〇〇万円を借入れたとしてこれに対する支払利息金一〇一万二五〇〇円を損金の額に算入しているが、右借入の事実はない。

(ニ) 前事業年度分にかかる本件更正処分によって増加した所得金額に対応する事業税額は金一四五万六九四〇円であり、これを本事業年度分の損金の額に算入する。

右(イ)ないし(ニ)のとおりの諸事由に基づいて本事業年度分の所得金額を算出すると、前記のとおりの金額となる。

(三) 昭和四七年一〇月一日から昭和四八年九月三〇日の事業年度分(別表(三)参照。以下「昭和四八事業年度分」という。)

(1) 所得金額 金四六三万八九四八円

本件更正前の所得金額(原告の申告額)は金一〇三万七三〇四円の欠損であるところ、右は収入利息金六三五万二九三二円を益金に計上していないのでこれを加算し、さらに支払利息として損金に計上されている金一八〇万円は過大計上であるからこの分を減算し、前年度の所得金額の増加に対応する未納事業税が金二四七万六六八〇円あるのでこれを損金に加算すると右所得金額となる。

(2) 加算、減算の事由

(イ) 被告の主張1(二)(2)(ロ)記載のとおりの事由があり、これと同様に本事業年度分の収入利息を計算すると、別表(九)のとおり合計金六三五万二九三二円となる。

(ロ) 被告の主張1(二)(2)(ハ)記載のとおり、原告は借入があるとして本事業年度の支払利息金一八〇万円を損金の額に算入しているが、右借入の事実はない。

(ハ) 前事業年度分にかかる本件更正処分によって増加した所得金額に対応する事業税額は金二四七万六六八〇円であり、これを本事業年度分の損金の額に算入する。

右(イ)ないし(ハ)のとおりの諸事由に基づいて本事業年度分の所得金額を算出すると、前記のとおりの金額となる。

(四) 昭和四八年一〇月一日から昭和四九年九月三〇日の事業年度分(別表(四)参照。以下「昭和四九事業年度分」という。)

(1) 所得金額 金三八九万一三六三円

本件更正前の所得金額(原告の申告額)は、金五万〇六四四円の欠損であるところ、右は、収入利息として計上すべき金三七一万七五六七円(森栄織物分の金二八八万八二三三円と金谷孝一分の金八二万九三三四円の合計)を益金に計上していないのでこれを加算し、さらに、貸倒損失として損金に計上された金六四万六〇〇〇円は過大計上であるからこの分を減算し、前年度の所得金額の増加に対応する未納事業税が金四二万一五六〇円あるので、これを損金に加算すると右所得金額となる。

(2) 加算、減算の事由

(イ)<1> 森栄織物関係の収入利息不計上分

被告の主張1(二)(2)(ロ)記載のとおりの事由があり、これと同様に本事業年度分の収入利息を計算すると、別表(一〇)のとおり合計金二八八万八二三二円となる。

<2> 金谷孝一関係の収入利息不計上分

原告は、金谷孝一に対し、月利四パーセント、弁済期一か月後の約定で別表(一一)のとおり金員を貸付け、同別表記載のとおりの利息を天引受領した。右の収入利息の合計は金八二万九三三四円となる。

<3> 原告は、右各収入利息の合計金三七一万七五六七円を益金の額に算入しない。

(ロ) 原告は、昭和四九年九月末日において、竹下勝昭に対して金一八〇万一〇〇〇円の貸付債権を有していたところ、右のうち金六四万六〇〇〇円を貸倒損失として損金の額に算入した。しかし、右金員は回収不能のものではない。

すなわち、債権の貸倒れは債務者が支払能力を喪失し、回収不能となった事実が客観的に認められる場合でなければならないが、竹下に対する貸金は、次のとおりそのような事実が客観的に認められるものとはいえない。

<1> 竹下は、ビニールホースや家庭用金物の卸売業を営んでいたが、その営業を休止したのは昭和五〇年二月ころであって、昭和四九年九月までは正常に営業を継続していた。

<2> 当時、竹下は、福井市開発町に土地、建物を所有しており、建物中には抵当権等の付着していない物置もあったから無資力ではなかった。

<3> 昭和四九年一〇月以降も原告と竹下との取引は継続し、昭和五〇年五月までに限ってみても少なくとも二八回、総額金一一〇二万七一〇〇円の貸金取引があり、これら貸金のほとんどは支払期日に決済されている。

<4> 原告が貸倒損失を計上するに至ったのは、竹下に対して割引した約束手形が不渡となったことによると考えられるが、仮に竹下に支払能力がなかったとしても、手形所持人である原告は右手形振出人の平林長次郎及び熊川孝士に対し手形上の権利を行使すれば、右平林らは当時当該手形債務を弁済しうる資力があったから債権の回収ができた筈である。

<5> 原告は、竹下との取引にあたり、同人の実兄である竹下昭夫を保証人として極度額金一五〇万円の保証書を差入れさせた。したがって、右保証人に保証債務の弁済を求めれば債権の回収は可能であった。

<6> 原告は、竹下に対する貸金総額金一八〇万一〇〇〇円のうち金六四万六〇〇〇円を貸倒損失としたが、これは原告が竹下に対する貸金回収の可否を吟味せず、不渡となった手形割引にかかる部分の貸金を不良債権とみて貸金の一部につき貸倒損失を計上したものとも認められ、これは債権の評価損を計上したことになるが、法人税法三三条二項は、債権についてはこのような評価損の計上を認めておらず、原告のなすような貸倒損失の計上は許されない。

(ハ) 前事業年度分にかかる本件更正処分によって増加した所得金額に対応する事業税額は金四二万一五六〇円であり、これを本事業年度分の損金の額に算入する。

以上の(イ)ないし(ハ)の諸事由に基づいて本事業年度分の所得金額を算出すると、前記のとおりの金額となる。

以上によれば、原告の各事業年度分の所得金額とこれに対する所定の法人税額は、別表(一)ないし(四)の各(7)欄記載のとおりとなり、原告が取消しを求める本件各更正処分は、いずれも右の範囲内においてなされたものであるから、何らこれを取消さなければならない理由は存しない。

2  重加算税賦課決定処分の適法性

原告は、左記各金額につき所得金額及び税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽又は仮装し、その隠蔽又は仮装したところに基づき確定申告書を提出した。

(一) 昭和四六事業年度分(期限後申告)

収入利息の不計上分 金一二八六万九六四〇円

(二) 昭和四七事業年度分

収入利息の不計上分 金二一五〇万九一七七円

支払利息の過大計上分 金一〇一万二五〇〇円

(三) 昭和四八事業年度分

収入利息の不計上分 金六三五万二九三二円

支払利息の過大計上分 金一八〇万円

(四) 昭和四九事業年度分

収入利息の不計上分 金三七一万七五六七円

よって、国税通則法六八条一項及び二項により、原告に対して、本件各事業年度分につき、前記被告の主張1記載の各所得金額に基づき計算した重加算税を課すべきところ、別表(一二)のとおり本件各重加算税賦課決定処分における重加算税額はいずれも右計算による重加算税額の範囲内にあるから、右の本件各処分はいずれも適法である。

3  過少申告加算税賦課決定処分の適法性

原告は、昭和四九事業年度分について貸倒損失として金六四万六〇〇〇円を過大に計上し、所得金額及び税額等を過少に申告したので、国税通則法六五条一項により過少申告加算税の賦課決定処分を行なったものであり、右処分は適法である。

4  源泉徴収にかかる所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分の適法性

(一) 昭和四九年二月ないし六月分及び九月分

(1) 原告は、金谷孝一から別表(一一)のとおり利息を天引き受領し、これをすべて原告の代表取締役である林政之(以下「林」又は「政之」ともいう。)に支給した。

(2) 右は、いずれも法人税法三五条四項所定の賞与に該当するので、原告は所得税法一八三条一項、一八六条一項により所定の各所得税(いずれも二パーセント)を徴収して右各支給月の翌月一〇日までにそれぞれ納付すべきところ、これをなさなかった。

(3) そこで、被告は右各支給金額中の左記の分につき本件納税告知処分をなした。

(イ) 昭和四九年二月分 金四万円

(ロ) 同年三月分 金五万六〇〇〇円

(ハ) 同年四月分 金四万円

(ニ) 同年五月分 金二万円

(ホ) 同年六月分 金一〇万四〇〇〇円

(ヘ) 同年九月分 金二四万八〇〇〇円

(4) 別表(五)の「原処分」欄中、右の各月分に対応する「本税額」は、右の金額の二パーセントにあたる前記所得税額である。

右のとおり、右各処分については何ら違法な点はない。

(二) 昭和四九年八月分

(1) 原告は、被告の主張1(一)(2)(ニ)記載のとおり、昭和四九年八月二六日、森栄織物から貸金債権金五〇〇〇万円の弁済を受けたが、これを全額原告の代表取締役である林政之に支給した。

(2) 右は前記と同様、賞与に該当するので、原告は、所定の所得税金二二二三万七五四八円を徴収して右支給月の翌月一〇日までに納付すべきところ、これをなさなかった。

(3) そこで、被告は本件納税告知処分をなしたが、右の所得税額金二二二三万七五四八円は、支給金額金五〇〇〇万円の一二分の一に相当する金四一六万六六六六円と前月中の給与の金額(社会保険料控除後のもの)金一三万円との合計金四二九万六六六六円に対する所得税法別表第四の給与所得の源泉徴収税額表(月額表)に基づく税額金一八五万三一二九円を一二倍した金額である。

(4) 本月分にかかる納税告知処分における所得税額である金二一二五万六五八八円は、右計算による所得税額の範囲内にある。また、本件不納付加算税賦課決定処分の加算税額金二一二万五六〇〇円も右計算による所得税額の一〇パーセントである金二二二万三七五四円の範囲内である。

よって、本件各処分はいずれも適法である。

四  被告の主張に対する認否及び反論

1  被告の主張1(一)(1)の所得金額(昭和四六事業年度分)及び(2)の各事実は、いずれも否認する。

原告ないしは原告代表者である林政之と森栄織物との取引は、次のとおりである。

(一) 原告は、もと林政之の父である林寿が経営していた会社であるが、昭和四五年二月二〇日に林政之が経営を承継しているものである。原告が貸付金として運用している資金は、出資金及び借入金等の特定の資金のみであって、原告の資産と経営者の個人資産とは明確に区別されている。

(二) 林政之は、林寿の死亡によりその遺産を相続したが、右遺産中には、林寿が遠縁にあたる森田祐兵衛に頼まれ森栄織物に対して個人で融通していた貸金が金一二〇〇万ないし一三〇〇万円程度存在した。右貸金はその後、いずれも期日に決済された。

(三) 林政之は右森田から頼まれ、その後も個人として森栄織物との取引を継続することとなったが、取引は従前林寿がなしていたように倉荷証券を担保とする貸付又は森田の持参する第三者(主として白井実業)振出しの手形を割引くという方法でなされた。政之が割引いた手形については、期日が到来する都度、政之が森田名義の銀行口座を通して取立てに回していた。この取引における貸付額は、おおむね金一二〇〇万ないし一三〇〇万円前後であり、金二〇〇〇万円を超える貸付残高となることはなかった。

(四) ところが、昭和四七年八月ころ、政之は森栄織物から同社所有の鯖江市水落町所在の山林等(以下「本件山林」という。)を担保として提供するとの条件で、多額の融資を要求された。そこで、政之及び原告は森栄織物に対する融資を次のように拡大し、これを担保するため本件山林に昭和四七年九月一日付で根抵当権(根抵当権者林政之、極度額金七五〇〇万円)を設定した。

(1) 政之個人でなく原告が、昭和四七年九月五日に金二〇〇〇万円を年一分の利息で森栄織物に貸付けた(この貸付については、昭和四九年七月二三日に返済を受け、その利息はすべて原告の収益として計上されている。)。

(2) 政之個人は、右根抵当権設定後ほぼ一年の間に森栄織物に対して手形一〇通(手形金額合計金五三〇〇万円)を割引き、さらに、蝶理株式会社(以下「蝶理」という。)に対する森栄織物の債務金四〇〇万円を代位弁済して昭和四七年一二月二六日付で先順位の蝶理の根抵当権を抹消し、右金四〇〇万円を森栄織物に対する貸金とした。

なお、政之の右貸付資金は自己資金のほか知人の平田護及び宮田五百里からそれぞれ金一五〇〇万円及び金一〇〇〇万円を借入れこれをあてた。

(五) 前項(2)で政之が割引いた手形は、いずれも二か月ないし三か月先の期日の手形であり、これを月五分の利息で割引いたものであるところ、森栄織物から頼まれ本件山林を処分する際に一括清算するとのことで、これらの手形については、合わせて借用証を徴求しただけで取立に回すことなく保有していた。なお、利息についても後日一括清算ということで、割引時の天引利息以外には一切受領していない。

(六) ところが、昭和四九年六月ころに至り、森栄織物から、借金を一括弁済するから利息を免除してほしい旨の申し入れがあり、政之はこれを承諾し難かったが、これまでの経緯や有力者の口添え等もあったので、やむなくこれを承諾せざるを得なくなり、同年八月二六日金五〇〇〇万円の現金を受領してすべてを清算した。

右のとおりであって、被告の主張はいずれも事実に反するものである。

すなわち、被告の主張する金五〇〇〇万円の貸付けは、右のような状況で林政之個人が借入金等を運用してなしたものであるから、これを原告の所得の基礎とすることなど、とうていなしえないのである。

2  同1(二)(1)の所得金額(昭和四七事業年度分)は否認する。

ただし、支払利息の過大計上があるとの点につき、金四一万二五〇〇円の限度で過大計上があることを認める。

3  同1(二)(2)の各事実はいずれも否認する。

ただし、右のうち(ハ)の事実については次のとおりである。

(一) 森栄織物からの借入金として計上されている金一〇〇〇万円は、西畑幸子からの金六〇〇万円の借入金のことである。

(二) 西畑からの借入れに際しては、利息を支払う旨の合意があったが利息の割合を決めていなかったので、原告と西畑との間で争いがあった。

(三) しかし、その後利息を年一割とすることで話がまとまり、昭和四六年から昭和四九年までの三年間の利息金一八〇万円を西畑に支払った。

(四) したがって、年六〇万円については現実に支払利息があるから過大計上ではない。これを超える部分についての過大計上は争わない。

4  同1(三)(1)の所得金額(昭和四八事業年度分)は否認する。

ただし、支払利息の過大計上があるとの点につき、金一二〇万円の限度で過大計上があることを認める。

5  同1(三)(2)の各事実はいずれも否認する。

ただし、右のうち(ロ)の事実については、前記3のとおり、西畑からの借入れに対する支払利息が金六〇万円あるから、この限度では過大計上ではない。これを超える部分についての過大計上は争わない。

6  同1(四)(1)の所得金額(昭和四九事業年度分)は否認する。

ただし、金谷孝一分の収入利息金八二万九三三四円が益金から除外されている事実は認める。

7  同1(四)(2)の各事実中(イ)<2>の事実を認め、その余の事実はいずれも否認する。

なお、(ロ)のとおりの申告をしたことは争わないが、竹下勝昭に対する債権は、次のとおり現実に回収不能である。

(一) 貸倒計上した竹下に対する貸金の金六四万六〇〇〇円は、同人から割引いた約束手形三通が不渡りとなったものであるが、これらは現実に回収不能となっている。

(二) 竹下は、昭和四九年九月ころすでに支払不能の状態であり、若干の不動産を所有していたとはいえ、高額の抵当権が設定されており、他にも多額の債務を負担していたので、この不動産に強制執行しても右貸金の回収は望めなかった。

(三) 原告は、右当時竹下に対して右のほかにも貸金債権を有していたが、これらも何度か手形の差換ないしは書換をした末、回収不能となった。

(四) 昭和四九年一〇月以降の竹下との取引は、いずれも右の手形の差換又は書換であって実質的な取引でなく同人に支払能力があったわけではない。

8  同2の事実は、前記の法人税更正処分を争う範囲で否認する。

9  同3の事実は否認する。

10  同4の事実中(一)の各事実は認めるが、(二)の各事実はすべて否認する。

前記のとおり、森栄織物に対する金五〇〇〇万円の貸金は、林政之が個人で調達したものを貸付けたのであって、原告の資金を融資したものでないから、もともと原告に帰属すべきものでなく、したがって、原告から政之に賞与として支給されることはありえない。

仮に、森栄織物への右融資が原告の営業行為とみなされるとしても、その資金の調達は政之がなしたものであるから、原告が政之から資金を借り受けこれを森栄織物に融資したことになるはずであり、そうすると原告が金五〇〇〇万円を政之に交付したのは、たんに借入金を返済したというにすぎず、賞与を支給したということはできない。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因事実は当事者間に争いがない。

そこで、各処分を適法とする被告の主張につき順次判断することとする。

二  まず、法人税更正処分の適法性(被告の主張1)につき判断する。

被告は、原告の各事業年度分の所得について、本件更正処分前には算定の基礎とされていない種々の事実がある旨主張するので、これらについて以下に検討することとする。

1  森栄織物からの収入利息について

(一)  成立に争いのない甲第一二号証、乙第一号証の四ないし九(原本の存在も含む)、第五八号証の一、二、第五九、第六〇号証、証人福田姫子の証言により成立の認められる乙第一号証の一ないし三、証人吉村正吉の証言により成立の認められる乙第一一号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第九、第一〇、第一二、第一三、第五六号証、第六一号証の三、四、証人吉村正吉、同福田姫子、同増水太市の各証言並びに原告代表者本人尋問の結果(いずれも認定に反する部分を除く。)を総合すると、次の各事実を認めることができる。

(1) 森栄織物は、昭和四一年末ころ、多くの負債をかかえ経営不振となったため、大口の債権者であった蝶理の資金援助を受け、債務の整理がなされた。

しかし、右の際、蝶理の援助でまかないきれない債務が残ったので、これを整理するために、昭和四二年六月ころ、原告から金二〇〇万円の融資を受けることとなった。

右の融資の際の契約では、貸付けの期間は二か月で、月利五分とし、二か月分の利息は天引きとされ、融資額の額面の手形を原告に差入れることとされた。そして、森栄織物は、取引先の白井実業から融通を受けた額面金二〇〇万円の約束手形を差入れ、原告から利息天引きで金一八〇万円の交付を受けた。

(2) 森栄織物は、右手形の支払期日に右手形金の支払ができなかったので、右手形を決済するための資金を、さらに原告から借り入れなければならず、右と同様の条件で融資を受けて差入れた手形の決済をするようになり、その際には、天引き分を差し引いても前回の手形金額を上回るだけの額面の手形を原告に差入れた。そして、右により借入れた資金で前回の手形を決済し、なお残余があるときは、運転資金として使用し、この分が実質的な借入元本の増加分となった。

(3) このような取引がくり返された結果、森栄織物の原告に対する債務は、昭和四五年には約金一七〇〇万円に達していた。

この間の取引は、いずれも月五分の割合の利息を天引き、期間も手形の満期日に合わせ、おおむね二か月単位でくり返されていた。

原告は、右の融資に際して森栄織物から受領した手形は、自己の名をかくし、森田祐兵衛名義で開設した数口の銀行口座によって期日に取立てをしていた。

(4) 右のとおり森栄織物の債務が約金一七〇〇万円に達したころから、原告は、実質的な貸し増しを嫌い、また、森栄織物や森田の振出しにかかる手形の受領を拒むようになった。

このため、その後は、森栄織物は、もっぱら前に差入れた手形の決済のためだけに、第三者から融通してもらった手形を原告に差入れるようになり、二か月ごとに利息のみが増加していくこととなった。

(5) 昭和四七年に至り、森栄織物は、原告以外の借入先の債務を整理するために、原告から新たに金二〇〇〇万円の借入れをする必要が生じた。

そこで、森栄織物と原告との間で、これまでの森栄織物の原告に対する債務を確認することとなり、同年六月三〇日、森田は、一応同日までの債務を確認する趣旨で、同人が同日振出し、同日満期の額面金四九〇〇万円の手形を原告に差入れ、さらに翌七月三一日に森田と林政之の間で具体的に森栄織物の原告に対する債務は同年六月末日において金四七五九万円であったことを確認し、これに前記同年七月三一日までの利息を加えて、以後は元本を金五〇〇〇万円とする債務とすることに合意し、森栄織物は原告に右金額を額面とする手形を差入れた。

そして、原告は、物的担保の差入れがあれば前記金二〇〇〇万円の新規貸付に応じてもよいとしたため、森栄織物は、その所有にかかる山林等を担保とすることに同意し、同年八月一〇日ころ、森栄織物は、原告のために、本件山林にそれまでの債務金五〇〇〇万円と新たな債務金二〇〇〇万円をまかなうことのできる極度額金七五〇〇万円の根抵当権を設定した。

ただし、右登記手続を原告に依頼したところ、原告は、同年九月一日付で代表者の林政之個人を根抵当権者とする登記を了した。

右登記後の同月五日、原告から森栄織物に対し金二〇〇〇万円の融資がなされた。

(6) 森栄織物は、右に確認した金五〇〇〇万円の債務につき、その利息として昭和四八年中に原告に対して金九〇〇万円を支払い、昭和四九年三月には、さらに金一三〇万円を支払った。

(7) 昭和四九年に至り、森栄織物はいよいよ経営を継続することが困難となり、同年三月一四日には本件山林につき、林政之の代物弁済予約の仮登記もなされたので、森栄織物は、右山林は原告に手渡すほかないと考えるに至ったが、原告に差入れてある手形の振出人に迷惑がかかってはならないと思い、かって同社の従業員であり、鯖江市の市会議員である吉村正吉に、原告との間の債務の整理を依頼した。

吉村は、森栄織物が原告のために根抵当権を設定していた本件山林が、鯖江市の道路建設予定地であるのを知っていたこともあって、右依頼を引き受け、森田と親戚関係にある福田姫子とともに、同年六月ころ原告を訪ね、森栄織物の債務を確認しようとしたところ、林政之から貸金は金一億円を超える旨告げられた。

そのおり、林は、この際金九〇〇〇万円位で清算する話に応じてもよいとの意向を示したが、それでは本件山林を市に売却してもとうてい支払いきれないため、吉村はさらに一か月ほど交渉を続け、結局、同年七月二〇日、金七〇〇〇万円の弁済をもって森栄織物の債務を清算する旨の話し合いが成立した。

(8) そこで、吉村はただちに金二〇〇〇万円の小切手を原告に差し入れ、右約束を確保するとともに、その翌日ころ、吉村振出しの額面金五〇〇〇万円の手形を原告に渡した。

右の金二〇〇〇万円の小切手は、同月二三日に林政之の名義で取立てられた。

(9) 一方、森栄織物の本件山林は、同年八月二三日に金八〇五六万円で鯖江市土地開発公社に買い取られ、右代金の一部として金六四〇〇万円が支払われたので、前記吉村の金五〇〇〇万円が支払われたので、前記吉村の金五〇〇〇万円の手形の満期は未到来であったが、早急に清算してしまうこととして、同月二六日、福井銀行本店の第一応接室において原告代表者である林政之に現金で金五〇〇〇万円が手渡され、それまで森栄織物から原告に差し入れられていた手形や借用証などが林から返還された。

しかし、吉村らの求めにも拘らず、金五〇〇〇万円の領収書は林から出されなかった。

(10) 右の結果、本件山林になされていた原告(林名義)の根抵当権設定登記は、同月二六日に抹消され、また、代物弁済予約の仮登記も同年一〇月一六日に抹消された。

以上の各事実が認められる。

原告は、右認定に関し、金五〇〇〇万円の森栄織物に対する債権は、原告代表者である林政之が、個人として自己資金や他から調達した資金により貸付けたものであるから、原告の債権ではない旨主張する。

しかしながら、前掲証拠並びに成立に争いのない乙第七四号証の一、二、弁論の全趣旨により成立の認められる同号証の三、四、第七六号証の二、五、証人平田護の証言及び弁論の全趣旨によれば、林は、本訴提起前に税務署からの質問に対して、金五〇〇〇万円の授受の事実自体を否定しており、本訴提起後も当初は同様に否定していたこと、林個人としては金融業の届出がなされていないこと、前記認定のように原告自身が原告の貸付と認めている金二〇〇〇万円の貸付についても、これを担保する根抵当権は林個人の名義でなされており、銀行口座なども実質的に原告のものが林名義とされ、林個人の名義は原告を表示するものとして利用されていたこと等の事実が認められ、また、林個人が資金を調達した先として主張する宮田五百里や平田護についても、金融業を営む林に多額の資金調達をするのに、利息や弁済期の定めもなされなかったと主張するなど、その源資の貸借関係自体極めて不合理であること、また、平田が林になした貸付の資金とされる平田の北陸電力からの収入も林に対する貸付金額金一五〇〇万円には及ばず、これより前に平田自身右収入により返済することとして福井相互銀行から金四〇〇万円の融資を受けていること、さらに、林は本訴提起前税務署に対して平田から借り入れた金二〇〇〇万円によって鯖江市琵琶山に土地を買った旨述べていること等の事実が認められ、これらの事実に照らすと、林が個人として資金の調達をした事実も、個人として森栄織物に融資をした事実もいずれもこれを認めることができない。

また、原告がるる主張するその余の点についても前記証拠及び認定事実に照らしいずれもこれを採用することができない。

(二)  以上の事実によれば、昭和四五年以降、昭和四七年七月末日に金五〇〇〇万円となるまでの森栄織物の原告に対する債務の増加分は、すべて月五分で二か月ごとに増加した利息(最後の一か月は金二四一万円)と認められるので、これにより各期間の利息を算出すると、別表(六)及び(七)のとおりであると認められる。

また、右金五〇〇〇万円となった債務についての利息(現実の授受額はともかく、月五分の約定自体が変更されたとは認められない。)として、森栄織物が原告に対して昭和四八年中に支払った金九〇〇万円は、昭和四七年八月一日から昭和四八年一二月末日までの利息とみるのが相当であり、昭和四九年三月中に支払った金一三〇万円は、同年一月一日から三月末日までの利息とみるのが相当である。そして、右のうち、<1>利息未払の間の事業年度においては、右金五〇〇〇万円に対する利息制限法所定の制限利率年一割五分の範囲の額(右約定利率が利息制限法所定の制限利率を超えることは明らかである。)、<2>利息支払時の属する事業年度においては、その事業年度分の現実の受取利息及び従前の経過利息中右<1>の算出金額を超える分があるときはその超過額との合計額、が原告に帰属すべき利息収入と考えられるところ、被告主張の別表(八)ないし(一〇)の額は、いずれも右で述べた原告の利息収入額の範囲にとどまることは、計算上明らかである。

右の各利息は、いずれも原告の収入利息として、各事業年度に対応する分を計上すべきものであるが、本件更正処分前においては、いずれの事業年度分も右の計上がなされていないことが認められるから、各事業年度分の原告の申告した所得額に右を益金加算すべきである。

2  借入金に対する支払利息について

原告は、昭和四七、四八各事業年度分につき、森栄織物から借入れた金一〇〇〇万円に対する利息として、それぞれ金一〇一万二五〇〇円、金一八〇万円を各年度に支払った旨申告したが、森栄織物からの借入れが存在しないことは、当事者間に争いがない。

右の計上について、原告は、右利息は、西畑幸子から原告が借入れていた金六〇〇万円に対する利息として、昭和四七、四八事業年度分につき各金六〇万円の限度で正当なものである旨主張する。

しかしながら、原告の右主張に沿う証人西畑幸子の証言及びこれにより成立の認められる甲第八、第九号証の各一、二は、次の認定判断に照して採用しがたい。

まず、元本の弁済から六年を経過した後に利息のみを支払うこと自体極めて不自然である。次に成立に争いのない乙第二号証によれば、西畑は国税調査官に対して利息の約定はなかった旨述べていたことが認められ、また、右利息の支払時期が本訴の提起後であること、西畑幸子と原告との関係等をも併せ考えると、昭和五五年になされた右合計金一八〇万円の授受は、原告の西畑に対する金六〇〇万円の借入金の利息として支払われたものと認めることはできず、少なくとも、本件係争年度中において右利息債権が確定的なものでなかったことは明らかである(原告も、貸借の当初において年一割という利息の約定がなかったことは自陳しているところである。)。

そうすると、原告が森栄織物に対する支払利息として計上した分は、すべて過大計上と認めるのが相当である。

3  金谷孝一からの収入利息について

原告が、金谷孝一に対し、月利四分、弁済期一か月後の約定で、別表(一一)のとおりに金員の貸付けをなし、右によって合計金八二万九三三四円の利息を得たことは当事者間に争いがない。

右の分は、昭和四九事業年度分の原告の収入利息として計上されるべきところ、原告はこれをしていないので、右金額を益金に加算すべきである。

4  竹下勝昭に対する貸倒損失について

原告が、昭和四九年九月末日において竹下勝昭に対して有していた債権金一八〇万一〇〇〇円のうち金六四万六〇〇〇円を貸倒損失として損金に計上したことは、当事者間に争いがない。

弁論の全趣旨によれば、右は原告が竹下に貸付をなすに際し、同人が裏書をした約束手形三通(振出人平林長次郎のもの二通と同熊川孝士のもの一通)を受けていたが、右三通がいずれも右事業年度内において不渡りとなったので、その合計額を貸倒損失として計上したものと認められる。

ところで、本件のように債権が法律的に消滅しない場合に、これを貸倒れとみるためには、その回収が客観的に不能と認められる状況の存することが要求されるものと解するのが相当であり、回収不能が客観的に明らかとなった場合には、その明らかとなった時点の事業年度において、貸倒れとして損金の扱いをなしうるものというべきである。

原告は、この点につき、貸倒れとして計上した債権は、現実に回収不能となっている旨主張するが、成立に争いのない乙第三ないし第八号証、第一四ないし第二一号証及び証人竹下勝昭の証言(認定に反する部分を除く。)によれば、竹下は、福井市開発町に土地、建物を所有しており、その中には昭和四九年当時抵当権等何らの負担も付着しない物件が存在したこと、昭和四九年一〇月以降も原告と竹下との取引は継続していたこと、原告と竹下との取引について竹下の債務は同人の兄である竹下昭夫が金一五〇万円の限度で保証しており、竹下昭夫所有の不動産も存在したこと、原告は不渡りの約束手形の振出人等に対し支払いを求めることもでき、振出人らはいずれも不動産を所有していたこと等の事実が認められ、これらの事実からすれば、原告が貸倒損失を計上した昭和四九事業年度の終日である昭和四九年九月三〇日までに、本件の合計金六四万六〇〇〇円の債権の回収が客観的に不能であることが明らかであったとは、とうてい認められない。

原告は、このような事情の存否を十分に検討しないまま、約束手形が不渡りとなったことの一事によって、竹下勝昭に対する債権の一部である右約束手形の合計金額を貸倒れに計上したものと考えざるをえない。

そうすると、原告が昭和四九事業年度分において貸倒損失として計上した金六四万六〇〇〇円は、貸倒れと認められず、また、その他これを損金として計上する事由は存しないものと認めるのが相当である。

三  以上の認定判断によれば、森栄織物からの収入利息は、昭和四六ないし四九各事業年度分に相応する分を各事業年度の益金として計上すべきであり、金谷孝一からの収入利息は昭和四九事業年度分の益金として計上すべきである。また、昭和四七、四八各事業年度分において森栄織物への支払利息として損金計上された分は、全額架空計上であるからこれを訂正し、さらに、昭和四九事業年度分において竹下勝昭に対する債権の貸倒損失として損金計上された分も同様に訂正されるべきである。

これにより、各事業年度分に対する本件更正処分の当否を検討すると、次のとおりとなる。

1  昭和四六事業年度分

本件更正処分前の原告の所得金額は、金七九万一五五三円とされていたところ、前記認定のとおり、右に含まれていない森栄織物からの収入利息が存することが明らかである。したがって、本事業年度分に相当する分(別表(六))の金一二八六万九六四〇円を右に加算した金一三六六万一一九三円が本事業年度分の原告の所得であり、これに対して法人税が課せられるべきものである。

ところで、原告が取消しを求める本件更正処分においては、原告の所得金額を金八九三万二八四三円と認定して、これに対して所定の法人税を課すものであるから、右更正処分は、原告の所得の範囲内でその所得金額を認定して課税しているにすぎず、これを取消すべき理由は存しない。

2  昭和四七事業年度分

本件更正処分前の原告の所得金額は、金一二八万一六五五円とされていたところ、前記認定のとおり、右には森栄織物からの収入利息のうち本事業年度分に相当する分(別表(七)及び(八)の合計)の金二一五〇万九一七七円が益金に含まれていないこと及び森栄織物に対する支払利息として損金に計上されている金一〇一万二五〇〇円については、その事実が存在しないことが明らかであるからこれらを加算、減算すると金二三八〇万三三三二円となる。

一方、前事業年度分の所得金額の増加に対応して増加する事業税額を算出すると、金一四五万六九二〇円となる。この事業税の未納分を本事業年度分の損金として前記金額から減算すると金二二三四万六四一二円となり、これが本事業年度分の原告の所得であり、これに対して法人税が課せられるべきものである。

ところで、原告が取消しを求める本件更正処分においては、原告の所得金額を金二九一万〇八〇三円と認定して、これに対して所定の法人税を課しているものであるから、右更正処分は、原告の所得の範囲内でその所得金額を認定してこれに課税しているにすぎず、これを取消すべき理由は存しない。

3  昭和四八事業年度分

本件更正処分前の原告の所得金額は、金一〇三万七三〇四円の欠損とされていたところ、前記認定のとおり、右には森栄織物からの収入利息のうち本事業年度分に相当する分(別表(九))の金六三五万二九三二円が益金に含まれていないこと、及び森栄織物に対する支払利息として損金に計上されている金一八〇万円についてはその事実が存在しないことが明らかであるから、これらを加算、減算すると金七一一万五六二八円となる。

一方、前事業年度分の所得金額の増加に対応して増加する事業税額を算出すると金二四七万六六八〇円となる。この事業年度分の損金として前記金額から減算すると金四六三万八九四八円となり、これが本事業年度分の原告の所得であって、これに対して法人税が課せられるべきものである。

ところで、原告が取消しを求める本件更正処分(異議申立てにより一部取消し後)においては、原告の所得金額を金六一万五六三六円と認定して、これに対して所定の法人税を課しているのであるから、右更正処分は、原告の所得の範囲内でその所得金額を認定してこれに課税しているにすぎず、これを取消すべき理由は存しない。

4  昭和四九事業年度分

本件更正処分前の原告の所得金額は、金五万〇六四四円の欠損とされていたところ、前記認定のとおり、右には森栄織物からの収入利息のうち本事業年度分に相当する分(別表(一〇))の金二八八万八二三三円、金谷孝一からの収入利息(別表(一一))の金八二万九三三四円がいずれも益金に含まれていないこと、及び貸倒損失として損金に計上されている竹下勝昭に対する貸金債権金六四万六〇〇〇円が貸倒れと認められないことが明らかであるから、これらを加算、減算すると金四三一万二九二三円となる。

一方、前事業年度分の所得金額の増加に対応して増加する事業税額を算出すると金三二万七四二〇円となる。この事業税の未納分を本事業年度分の損金として前記金額から減算すると金三九八万五五〇三円となり、これが本事業年度分の原告の所得であって、これに対して法人税が課せられるべきものである。

ところで、原告が取消しを求める本件更正処分(異議申立て及び審査請求によって一部取消し後)においては、原告の所得金額を金一三八万七七九〇円と認定して、これに対して所定の法人税を課しているのであるから、右更正処分は、原告の所得の範囲内でその所得金額を認定してこれに課税しているにすぎず、これを取消すべき理由は存しない。

以上のとおりであるから、各事業年度の本件更正処分はいずれも適法であって、これを取消すべき理由はないものというべきである。

四  次に、重加算税賦課決定処分(被告の主張2)及び過少申告加算税賦課決定処分(同3)につき判断する。

前記認定事実によれば、原告は、前記認定の収益があったにもかかわらず、これを隠蔽もしくは仮装し、これに基づき各事業年度において被告の主張2(一)ないし(四)のとおり収入利息を計上せず、又は存在しない支払利息を計上して確定申告書を提出した(なお、昭和四六事業年度分の申告は期限後である。)ことが明らかである。

そうすると、右は国税通則法六八条の規定により重加算税賦課決定処分の対象となるものであって、原告が取消しを求める各処分において課されている重加算税額は、いずれも計算上本来課し得る重加算税の範囲内において課されていることが明らかであるから、本件の重加算税賦課決定処分はいずれも適法であって、これを取消すべき理由はない。

また、昭和四九事業年度分に計上された貸倒損失のうち金六四万六〇〇〇円が貸倒れとして計上すべきでないことは前記認定のとおりであるから、この分については国税通則法六五条により過少申告加算税の対象となるものであって、本件の過少申告加算税賦課決定処分は右規定に基づくもので適法である。

よって、本件の重加算税賦課決定処分及び過少申告加算税賦課決定処分は、いずれも適法であってこれを取消すべき理由はない。

五  さらに、源泉徴収にかかる所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分(被告の主張4)について判断する。

昭和四九年二月ないし六月分及び九月分(被告の主張4(一))については当事者間に争いがない。

そこで、同年八月分について検討する。

弁論の全趣旨によれば、前記認定の昭和四九年八月二六日に福井銀行において森栄織物から原告へ貸金の弁済として手渡された現金五〇〇〇万円は、その後、林政之個人の収入となったものと認められる。

そして、林は原告の代表者であるから、右は原告から林に対して支給された臨時的な給与たる性格の金員であり、したがって、所得税法二八条一項にいう給与等(賞与)に該当すると認めるのが相当である。

なお、原告は、右の点につき、右は原告が林から借入れていた金員の弁済であるかのように主張するが、このような事実を窺わせるに足る証拠もなく、また、前記認定の事実経過に照らしても採用できない。

したがって、原告は所得税法一八三条、一八六条の規定に基づき所定の所得税を徴収して支給月の翌月の一〇日までに納付すべき義務があると認められるところ、原告がこれをなしていないことは明らかである。

そして、原告がこれをなさないことについて、正当な事由が存在するものとは認められないから、国税通則法六七条の規定により、右は不納付加算税の対象にもなるものといわざるをえない。

そこで、まず、右賞与に対する所得税額を算出するに、所得税法一八六条一項一号ロの規定に基づき、支給金額金五〇〇〇万円の一二分の一に相当する金四一六万六六六六円と前月中の給与の金額(社会保険料額控除後のもの)金一三万円との合計金四二九万六六六六円に対する同法別表第四の給与所得の源泉徴収税額表(月額表)により求められる税金額(林の扶養親族等の数四人)金一八四万八九二九円を一二倍すると金二二一八万七一四八円となり、これが源泉徴収すべき所得税額となる。

また、これに対する不納付加算税は、国税通則法六七条の規定により、金二二一万八七〇〇円となる。

原告が取消しを求める昭和四九年八月分の源泉徴収にかかる所得税の納税告知処分における所得税額は、金二一二五万六五八八円であって、右に算出した所得税額の範囲内であり、また、不納付加算税賦課決定処分における不納付加算税額金二一二万五六〇〇円もその範囲内のものである。

したがって、右各処分は、いずれも所定の範囲内でなされた適法な処分であって、これを取消すべき理由はないものというべきである。

六  以上のとおり、本件各処分はいずれも適法であると認められ、本件記録を検討しても他に本件各処分を取消さなければならない理由は見出しえない。

そうすると、原告の請求は理由がないことに帰するので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋爽一郎 裁判官 園部秀穂 裁判官 石井忠雄)

別表(一)

課税処分経緯表(一)

課税期間 昭和45年10月1日~昭和46年9月30日

<省略>

別表(二)

課税処分経緯表(二)

課税期間 昭和46年10月1日~昭和47年9月30日

<省略>

別表(三)

課税処分経緯表(三)

課税期間 昭和47年10月1日~昭和48年9月30日

<省略>

別表(四)

課税処分経緯表(四)

課税期間 昭和48年10月1日~昭和49年9月30日

<省略>

別表(五)

<省略>

別表(六)

昭和46事業年度分 利息明細表

<省略>

別表(七)

昭和47事業年度分 利息明細表

<省略>

別表(八)

森栄織物への貸付債権に係る収入利息計算書

(昭和47事業年度分)

<省略>

別表(九)

森栄織物への貸付債権に係る収入利息計算書

(昭和48事業年度分)

<省略>

別表(一〇)

森栄織物への貸付債権に係る収入利息計算書

(昭和49事業年度分)

<省略>

別表(一一)

昭和49事業年度分利息明細表(金谷孝一関係)

<省略>

別表(一二)

<省略>

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